球春到来の熱気の中、チームの束ね方は指揮官の哲学によって見事に分かれる。精神的な土台からチームをリセットしようと試みる者がいれば、海の向こうでは過酷なサバイバルレースの中でロースターの最適解を探る者がいる。
阪神タイガースの藤川球児新監督(45)が春季キャンプで打ち出したのは、いわば過去の栄光との決別だった。宜野座でのキャンプイン歓迎セレモニー。藤川監督はスピーチの場で、力強く宣言した。「昨日、選手たちと約束したんです。『連覇』という言葉は使わない、と。新たにチームを作り上げ、素晴らしい最後の1日を迎えようじゃないかと」。
前日1月31日に宿舎で行われた全体ミーティングでナインに伝えられたというこの方針。岡田前監督が2023年に過度なプレッシャーを避けるべく「優勝」を禁句とし「アレ」と表現した記憶は新しいが、藤川監督の“連覇封印”にも明確なリアリズムが透けて見える。「強いつもりでいるのが一番嘘っぽいですから。チームはゼロから作ります。今の選手たちは、あちこちに散らばった宝石みたいな状態ですから」。先を見据えすぎるのではなく、目の前の1日を積み重ねていく。言葉への執着を捨てることで、自然と目標へ到達できるという計算があるのだろう。
一方で、キャンプ初日の空気感は決して張り詰めたものばかりではない。練習前の宜野座では「キャンプイン 虎ウォーク」と銘打たれたミニパレードが行われ、指揮官らナインがファンの声援に応えながらメイン球場まで練り歩いた。歓迎セレモニーでは當眞淳・宜野座村長(53)が午年に引っ掛け、キャンプの企画運営を担う球団本部の馬場哲也部長(56)の名前をもじって「ババ(馬場)ナイスデイ!」と挨拶。藤川監督もこれに呼応して「ババ、ナイスデイ!」でスピーチを締めくくり、球場の笑いを誘う一幕もあった。具志川で汗を流す実績組の動向にも目を配るなど、新体制の船出は上々のようだ。
視点を変えて、ペナントレースの只中にあるメジャーリーグへと目を向けると、そこでは全く別の次元での「チーム再構築」――すなわち、野戦病院と化したロースターのやり繰りが現在進行形で繰り広げられている。
アリゾナ・ダイヤモンドバックスのトーリ・ロブロ監督は、翌日のジャイアンツ戦に先発させるため、ブランドン・ファートをメジャーへ昇格させると明言した。現在9人体制のブルペンを敷いているチームにとって、枠を空けるための降格者を伴う苦肉の策である。
ファートのローテーション復帰は4月以来のことだ。開幕当初こそメリル・ケリーの故障者リスト入りに伴い先発枠に滑り込んだものの、3登板中2試合で打ち込まれ、ケリー復帰とともにブルペンへ配置転換されていた。序盤戦はロングリリーフ候補のマイケル・ソロカの方が状態が良かったためだ。一時期、Dバックスのローテはケリー、ザック・ガレン、エドゥアルド・ロドリゲス、ソロカ、ライン・ネルソンという布陣で回っていた。ファートは6週間リリーフを務めた後、再び先発としてイニングを伸ばすべく傘下3Aへ降格。しかし皮肉なことにその直後、ソロカ(左臀部の張り)とネルソン(屈筋の部分断裂)が立て続けに戦線離脱してしまう。ソロカは7月下旬の復帰が見込まれるが、ネルソンは9月までもつれ込む見通しだ。
空いた穴を埋めるべく、ルーキー右腕のホセ・カブレラがローテ入りを果たしたほか、先週には左腕ミッチ・ブラットがMLBデビューとなるスポット先発を務めている。ただ、ブラットはマイナーでの負傷明けで球数制限があり、3回で降板して翌日にはマイナーへ戻された。この逼迫した台所事情にあって、お呼びがかかったのがファートというわけだ。3Aリノでの3先発でまだ4イニングを投げ切ったことはないものの、10回を投げて3失点、7奪三振2四球と状態自体は持ち直している。今季メジャーでは38イニングで防御率6.00前後と苦しんでいるが、もはや贅沢は言っていられない。
エドゥアルド・ロドリゲスの好投もあって直近のジャイアンツ戦のカード初戦をモノにし、同カード7戦全勝としたDバックス。だが、週末のレイズ戦でスイープを食らったことで一時は6週間ぶりに勝率5割を切り、現在は42勝42敗。大混戦のナ・リーグ ワイルドカード争いにおいて、圏内から2.5ゲーム差の位置でもがいている。マイク・ヘイゼンGMは以前から「買い手」に回る意向を示しており、左打ちの野手やリリーフ陣の補強を視野に入れている。6月上旬の時点では先発投手の補強には消極的だったが、それは先述の負傷ドミノが起きる前の話だ。
チームの根幹を成す「言葉の呪縛」を解き放ちゼロから組織をデザインする作業と、刻一刻と変化する戦況の中でパズルのピースを嵌め直す作業。直面しているフェーズや求められるタスクの性質は違えど、戦力をどう維持し、どう機能させるかという命題はグラウンドに立つ者たちの常である。日米で交錯するこれらの景色は、野球というスポーツが内包する果てしないマネジメントのジレンマを、静かに物語っている。
