ヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(33)が、ついにWBC米国代表のユニホーム姿を披露した。MLBやWBCの公式Xでその堂々たる姿が公開されると、全米のファンからは「キャプテン、優勝を頼むぞ」と熱狂的な声が沸き起こり、大会に向けたボルテージは一気に最高潮に達している。
彼が代表入りと主将就任をいち早く宣言したのは昨年4月のこと。この「ジャッジ効果」は絶大だった。ロイヤルズの若きスターであるウィット、本塁打王に輝いたフィリーズの大砲シュワバー、マリナーズの要であるローリーといった野手陣に加え、サイ・ヤング賞右腕のスキーンズ(パイレーツ)やスクバル(タイガース)ら球界の顔が次々と合流。文字通り、誰もが夢見たドリームチームが完成したのである。
昨季のジャッジは打率.331、53本塁打、114打点という異次元の成績で首位打者を獲得し、2年連続3度目となるMVPの栄冠を手にした。シーズン中に右肘を痛めて負傷者リスト入りした時期もあったため状態を危ぶむ声もあったが、アーロン・ブーン監督はMLB公式サイトのブライアン・ホーク記者の取材に対し「肘の状態は良く、すでにWBCに向けたキャッチボールも始めている」と明言。万全の態勢で大舞台へ乗り込むアメリカンスーパースターの姿は、まさに今大会の「光」そのものだ。
だが、国際大会という巨大なステージが映し出すのは、華やかなトップ選手たちの活躍だけではない。強烈なスポットライトの当たらない裏側には、残酷な現実と向き合うベテランの姿もある。
今大会で最年長出場選手となったのが、キューバ代表として出場したアレクセイ・ラミレスだ。44歳。ホワイトソックスなどで9年間プレーし、シルバースラッガー賞を2度獲得、通算1387安打、115本塁打、143盗塁、キャリア打率.270を記録した名ショートである。母国キューバのトップリーグで7年間プレーしたのち、2007年のWBCで代表入り。それから約20年という月日を経て再び代表のユニホームに袖を通した彼の物語は、本来であれば美しいノスタルジーとして語られるはずだった。しかし、彼に与えられた出番は1次ラウンドのたった1試合のみ。結果は空振り三振。それが、彼にとっての静かな終焉のように見えた。
ところが4月29日、その静かな幕切れは最悪の形で打ち砕かれることになる。国際検査機関(ITA)が、WBC期間中の3月に採取されたラミレスの検体から、メスタノロン、メタンジエノン、オキサンドロロン、スタノゾロールという4種類の禁止物質が検出されたと発表したのだ。即座に暫定的な資格停止処分が下され、彼の最後の挑戦は「汚れた記録」として処理されることになった(選手側には処分への異議申し立てと解除を求める権利は残されているが)。
もちろん、2018年のメキシコでのプレーを最後にプロの舞台から遠ざかっていた44歳の彼にとって、この出場停止処分が今後のキャリアに与える実質的なダメージは皆無に等しい。年齢的にも次回のWBC出場などあり得ない話だ。失うものは、表面的には何もない。
ここで本当に問われるべきは、なぜ彼が薬に手を出したのかという背景と、彼自身の健康への影響だろう。もう一度だけ野球の世界大会で打席に立つため、老いた身体に鞭を打とうと一か八かでステロイドの力に頼ったのか。それとも、現在の彼の日常生活そのものに、もっと深刻な問題が潜んでいるのか。真意は定かではないが、多量の薬物が検出されたという事実は、彼がメジャーデビューを果たした一昔前と比べ、現在の野球界における薬物検査がいかに厳格化し、時代が変わったかを痛烈に思い知らせる。
ジャッジのような現役バリバリのスーパースターがクリーンな熱狂を生み出し、球界の未来を照らす一方で、過去の栄光を背負った老兵が薬物とともにひっそりと姿を消していく。WBCという祭典が内包するこの強烈なコントラストは、華やかな現代野球が抱える光と影の縮図として、我々に奇妙な後味を残している。
